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医療法人資産

円の価値が下がっても、医療法人は資産を守るなというのか?

医療法人の財務体質が問われる時代に

昨今、インフレ傾向が強まる中、医療法人は「資産をどう守るか」「資産価値をどう維持していくか」という財務的課題に直面しています。

こうした状況下で、不動産取得や有価証券投資を検討する際、「医療法に違反するのではないか」と都道府県や行政に指摘される可能性があります。

医療法第42条の2では、「医療以外の事業は禁止されている」と明記されています。

これを根拠に、「株式などのリスク資産への投資は避けるべきだ」という運用がなされています。

しかし、この条文をもって「すべての投資が違法」とするのは、本当に妥当でしょうか。

法律には「目的」がある

法律には必ず「目的」があります。

医療法においては、国民に対して安全で安定的な医療を提供することが目的です。

したがって、医療法人の財務的基礎が安定していなければなりません。

お金がなければ、患者さんに最善の医療を施すこともできなくなります。

では、仮に日本でインフレが過度に進んだ場合、円建て資産だけで資金を保持し続けることは、果たして安全な医療の提供に資するのでしょうか?

「医療以外の事業」と投資の線引き

たとえば、経営者が過度なインフレを回避すべく、円の逃避先として株式や不動産を選択した場合、それは法の目的に反するとまでいえるのでしょうか?

経営とは、将来を予測して行う判断の積み重ねです。

医療法人が、余剰資金を活用して将来の医療用地候補として不動産を購入したり、診療に必要なインフラ確保を見越して資産を運用することは、むしろ合理的経営判断です。

仮に一棟マンションを買収し、当直明けの看護師の仮眠スペースとして使う、あるいは将来の分院候補地として保持することなどは、医療の安定提供に直接つながる行為と評価する余地があります。

「通達」が目的を超えてはならない

こうした投資判断を、「医療以外の事業」としてただちに違法と扱うのであれば、それは通達の解釈が法の目的を逸脱していることになりかねません。

行政通達はあくまで法の解釈指針であり、目的を超えて制限を課すべきではないはずです。

この点について、私が尊敬する松沢智先生(元裁判官・TKC全国会元会長)の言葉をご紹介します。

「法律は、解釈を争うことで発展する。」

まさに、医療法人が合理的な投資を行ったにもかかわらず、「通達違反」として行政処分されるような事案があれば、司法の場で争うことが、法律の発展をもたらすといえるのではないでしょうか。

円資産のみに縛ることで、本当に守れるのか

医療法人の経営者には、「安全な医療を安定的に提供する」という原点に立ち返り、資産防衛や将来投資について自由に議論できる土壌が必要です。

国の経済政策としてインフレ容認が進む中、円資産のままで保有し続けよという通達運用は、経営の自由や財産権を侵害するものとも言えます。

国は、円の価値が下がったときに、その責任を取ってくれません。

だからこそ、医療法人経営者は、自分たちの財務基盤を自ら守る必要があるのです。

自由主義社会の根幹として

医療法が規制しているのは、「危険な投機的事業」であって、通常の合理的な資産運用まで否定しているわけではありません。

そうでなければ、我が国の医療法人制度は、変化する経済環境に適応できない硬直的な制度として立ち行かなくなります。

これは、自由主義社会の中で、法律と経済の折り合いをどうつけるかという問題でもあります。

本稿が、法の目的に立ち返るきっかけになれば幸いです。